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第29話 切るように見せる一手

Author: marimo
last update publish date: 2026-03-02 20:41:43

 ――切る。

 そう見える形でなければ、意味がない。

 九条玲司は、九条ホールディングス本社最上階の執務室で、一人、書類に目を落としていた。

 夜の帳が下り、窓の向こうには東京の灯りが静かに瞬いている。

だが、その景色を楽しむ余裕はなかった。

 綾乃に関わる件から、意図的に一歩引く。

 東亜リンクス商事に関する会議には出ない。

 庇わない。

 擁護もしない。

 どれもが、玲司にとっては不自然な選択だった。

 本来なら、彼は真逆の立場を取る人間だ。守るべきものがあるなら、前に出る。批判も矢面も、すべて自分が引き受ける。

 ――だが、今回は違う。

 周囲には、こう映るだろう。

 九条玲司は、妻を切ったと。

 社内外の人間は、ささやくはずだ。

 結局、九条は九条だ、と。

 会社を守るためなら、妻でさえ切る男だ、と。

 だが、それでいい。

 玲司は、書類から視線を外し、背もたれに深く身を預けた。

 指先で、無意識にペンを転がす。

 今回の「東亜リンクス商事の不正に関わった」という疑惑が、

なぜ綾乃に向けられたのか。

 その理由が、ようやく輪郭を帯び始めていた。

 思い出すのは、先日のパーティ
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